旧来の玉の技術の踏襲、模倣、そして模造品。

とんぼ玉・アンティークビーズの中には、非常に似かよったデザインの玉が見られます。

それらの玉が作られた背景を探っていくと、それぞれの時代の職人または商人が、ある時は謙虚に、ある時はしたたかに、旧来の玉の技法やデザインを我がものにしようとした努力やあるいは狡さが垣間見られ、興味深いものです。

 旧来の玉の模倣とはいえ、職人魂や独自性の見られるものは、それで高い評価を得ています。

誰もが、模倣から始まって学んでいくのですから・・焼き物(陶芸)や絵画と同じです。
むしろ、古いものから学ぼうとしない芸術家や職人を私は、評価しません。

 ところが、特に最近、大量生産の悪質な模造品が出回っています。これには、注意をしたいものです。

ここでは、その一部を写真で比較しながらご紹介いたします。 【雅】

掻き揚げ文様トンボ玉
 左から10世紀頃のイスラム玉、18世紀頃のヴェネチアとんぼ玉、現代のインド製とんぼ玉。

オリジナルであるイスラム玉のデザインをヴェネチアが模倣して作ったものです。

緻密さにおいては、800年を遡るイスラム期の職人の技にはかないませんが、金赤をのせるなどの工夫が見られ、ぽってりとした形に愛嬌があります。

それに比べ、大量生産の模造品である現代のインドビーズは、つくりが雑でなんの面白みも感じられません。


スカンク
 左が1900年代初頭のヴェネチアのスカンク、右2つは現代のインド製の模造ビーズ。

ガラスの質感がまったく違います。



スカンク
 左が1900年代初頭のヴェネチアの赤目スカンク、右は現代の中国製の模造ビーズ。

中国製の模造ビーズはどれもきれいに出来ていますが、ドットの入り方などが均一すぎて、「規格に従った」感があります。


ドッグトゥース
  左が1800年代後期のヴェネチアのドッグトゥース、右は現代のインド製の模造ビーズ。

ドッグトゥースも、イスラム玉の模倣によって作られたものだと思いますが、小さなボディーに非常に緻密な層を持っており、当時のヴェネチアのビーズ職人の技術力の高さを感じます。

右のインド製も小型で一つ一つ作られていますが、ガラスの質感がまったく違い、軽い印象です。

端の処理もきれいに出来ていません。


フェザービーズ
  左が1900年代初頭のヴェネチアのフェザービーズ、右はインド製の現代のフェザービーズ。

ヴェネチアのものは非常に丁寧に作られており、力強く、威厳さえ感じられます。

右のインド製はアジアの山岳民族が愛用するもので、その需要を受けてまじめな作りになっていますが、ヴェネツィア製のものとは、似て非なるもの。

ガラスの質もまったく違い、ラインがボケた感じです。


インド製ミルフィオリ
  南アフリカでたくさん売られていた、現代物のインド製モザイクビーズいろいろ。

今や世界中で見かけます。


ミルフィオリ
左がイスラム初期またはそれ以前(4世紀~9世紀)と考えられるモザイク。

右が1900年初頭のヴェネチア製ミルフィオリ。

ヴェネチアのビーズ職人が大航海時代に、ローマンモザイクに感銘を受け、そのモザイク技法を応用したといわれています。

それにしても、この古いモザイクの緻密さ、色の組み合わせの妙にはため息が出ます。

ヴェネチアの職人達はこういった古いモザイクに思いを馳せながら精進を続けたのでしょう。


ミルフィオリ
左が1900年初頭のヴェネチア製ミルフィオリ。右が現代のインド製。

インド製のものは製法が違っており、コアがないのと両端に切った後がありません。

また、ガラスの質が違っており、ヴェネチアのものに比べて軽い印象です。


シェブロン
左が1900年初頭のヴェネチア製シェブロン。右は現代のインドネシア製。

ヴェネツィア製のものは表面が滑らかで、インドネシア製のものはかすれてざらついた感じです。

丁寧な作りではありますが、肌の感じですぐに見分けが付きます。

ヴェネチア産のシェブロンは、たとえ小粒のものでも独特の存在感で迫力があります。

インドネシア製のほかに、インド製の新しいシェブロンもたくさん出回っています。


シェブロン
インド製のシェブロンです。

汚れていますが新しいものです。
ヴェネチアのオールドシェブロンは、陶器のようなキメの細かいすべらかな肌をしています。
インド製は、全体的につくりが雑で、より硬質なガラスの鋭利さを感じます。

また、ヴェネチアのシェブロンは星型の鋳型を用い「鋳造+研磨」の手法で製造されるビーズですが、インド製のシェブロンは鋳型を使用しません。
「hot-strip method」と呼ばれる手法で製造されています。
そもそも作り方が異なるというわけです。

断面の模様の見え方が異なるわけです。


カンネ
左が1900年代初頭のべネチア製カンネ(筋玉)。
右は現代のインド製。

ヴェネチアのものは層構造を持っており、凝ったつくりで色も美しいです。
インド製はガラス表面にテカリがあるのに発色が鈍く、色にメリハリがありません。


カンネ
左2つが1900年代初頭に作られたヴェネチア製カンネ(筋玉)。
右の2つはそれを模倣して作ったアフリカ製のパウダーグラスビーズ(再生玉)。

アフリカの古い再生玉に関しては、今までご紹介してきた物と反対で、模倣である再生玉の方が欧米において近年評価が上がってきました。
見て分かるように、ヴェネチア製に比べ、アフリカの再生玉はとても丁寧に作られています。

ヴェネチアの玉は、交易のために大量生産を余儀なくされた部分もあったのですが、アフリカでは、一つ一つ自分達のために丁寧に作ったので、数も少なく貴重で、大切に扱われました。
ただ、最近はお土産品としてのガーナ製再生ガラスビーズが大量に出回っています。これらは、まったくの別物です。


キングビーズ
左が1900年代初頭に作られたヴェネチア製キングビーズ。

右はそれを模倣して作ったアフリカ製のパウダーグラスビーズ(オロゴ)です。
キング(王様)と呼ばれたビーズをアフリカの人が再生したのですが、これに関しては、やはり技術が追いつかなかったのと、再生ガラスという限られた材料では限界があったのでしょう。。
それでも、素朴で存在感のある玉に仕上がっています。
どちらもとても希少で貴重なビーズです。


アコソ
左2つが1900年代初頭に作られたヴェネチア製ファンシービーズ。

右2つは、アフリカ製パウダーグラスビーズ(アコソ)です。
これは、非常におもしろい例で、アフリカのアコソをヴェネチアがまねて作ったものです。

アフリカの王族や富裕層に愛されたアコソをヴェネチアが質の良いガラスで再生して、売り込もうとしたのでしょう。


パウダーグラスビーズ
下の5つが1800年代後期~1900年代初頭に作られたヴェネチア製ビーズ。

上1つは、アフリカ製パウダーグラスビーズです。
同じタイプのビーズでも各時代、各職人によって個性が強く表れています。

左から右へ時代が古くなります。いずれも線に迷いがなく熟練の技が見られます。


これらに比べアフリカのパウダーガラスビーズは、不器用ながらも注意深く線を引いた感じが素朴で、熱意が感じられます。
両極のおもしろさです。



戦国玉
左が紀元前5~3世紀の戦国玉。

右は、現代の中国で作られた模造品です。

古っぽく作っていますが、本物の戦国玉を見たことがある人ならば、すぐに見分けがつきます。
現在、中国やアジアのショップなどで見かけるものは、この類です。

本物の戦国玉は、コレクターが手放さない限り、市場(しじょう)に出てくることは稀といっていいでしょう。


戦国玉
左が紀元前5~3世紀のファイアンス戦国玉。

右は、現代の中国で作られた模造品です。

古っぽく作っていますが、本物の戦国玉を見たことがある人ならば、すぐに見分けがつきます。
上のものと同じく現在、中国やアジアのショップなどで見かけるものは、この類です。
現在、本物の戦国玉は、コレクターが手放さない限り、市場(しじょう)に出てくることは稀といっていいでしょう。。
その時代に使われなかったような色が使われている場合があります。


スカラベ スカラベ
左が古代エジプト王朝時代のスカラベ。

右2つは、エジプトの土産物レベルのスカラベです。

古いものは表面が磨耗していて、裏に深く掘り込まれた文字も大分風化しています。真中のものは釉薬をかけて焼成していますが、裏の文字がいかにも貧弱。一番右は作りも丁寧で、現代のものといえど、なかなかおもしろいものです。


ムーンビーズ
左が1600年代オランダ製の発掘ドゴンビーズ。

右は、1800年代後期のヴェネチア製ムーンビーズです。

一見似ていますが、ムーンビーズの方は、光を通すとオパール乳白の神秘的な輝きを見せてくれます。


ジャワ玉
左が5~10世紀頃のジャワ玉。

右は、現代に作られたレプリカです。

ここに出したサンプルのレベルだと、本物の古いジャワ玉を見た事がある人ならば、すぐ分かるのですが、中には一度埋めて掘り出したレプリカなどもあり、素人には見分けの付きにくい「うまい複製」もあります。

レプリカの方も上手に作っていますが、到底古い玉の精巧なモザイクにはかないません。


ジャワ玉
左が5~10世紀頃のジャワ玉。

右は、現代に作られたレプリカです。

色の感じなど、違いが分かりやすい例です。
この玉は、穴周辺が風化しています。。「穴周辺を見ると見分けが付く・・・」というのは、確かにそういうこともありますが、固焼きで穴周辺が非常に良い状態で出土するものもあります。


ジャワ玉
左が5~10世紀頃のジャワ玉プランギ。

右は、現代に作られたレプリカです。

意外に思うかもしれませんが、色鮮やかな方が古いものなのです。

古い玉は、丁寧なつくりで美しく、誰が見ても欲しくなるような色気を持っています。


インドパシフィックビーズ・ムティサラ
左が10世紀頃のムティサラッ(インドパシフィックビーズ)。

右は、現代に作られたレプリカです。

写真で見ると違いは明らかですが、このレプリカがアクセサリーになっていたのをタイで見たときは、プロの私達でも一瞬「えっ」と思いました。

古いムティサラッや他のインドパシフィックビーズは、粒の大きさ・形がばらばらです。
色は、なんとも形容しがたい中間色で、使い込まれたツヤのあるものも、表面が擦れたようになっているものも、どちらも独特の存在感を持っています。


清朝乾隆玉/レプリカとオリジナルの比較 清朝乾隆玉/レプリカとオリジナルの比較
Oldと指し示してあるものが1920年代頃に作られたオリジナルの中国製ミルフィオリ(乾隆玉)。

Newと示してあるものが1900年代末期から2000年代初期にかけて作られたレプリカです。

レプリカはオリジナルに比べると文様がぼんやりして緻密さに劣り、ガラスのきめが粗く、表層や孔の周辺に皺(しわ)のようなものが見られスムースさに欠けます。
現在、オリジナルは極めて希少で入手困難です。